第八章 産業社会と情報化
8.1 オペレーションズリサーチ
□線形計画法
◇線形計画法(LP:Linear Programming)
製品を作成するときや人員を配置するというような計画を立案する際に、人・物・金・時間・空間などの資源について必ず何らかの制約を受ける。
このような制約条件の中で、目的とする最適な計画の解を見出すための手法が線形計画法である。
・グラフによる解法
線形計画法の中では、幅広く用いられている解法である。
2次元のグラフ上に制約条件の範囲を描き、その中から目的関数を最大にする変数の値を見出す方法である。
ただし、目的関数の変数が3個以上になると、この方法で処理するのは困難である。
・シンプレックス法
制約条件を表す1次不等式と目的関数を用いて、幾何学的な考え方に基づき、目的関数が最大となる変数の組を系統立てて順次探索していく解法である。
□日程計画
日程計画は、作業の手順、要員や資源の割り当て管理など、適用される場面はとても多い。
日程計画のための代表的な手法として、PERTやCPMという技法がある。
◇PERTとは
プロジェクトの手順計画をアローダイヤグラムで表し、遂行時間の計画の評価、調整および進捗管理を行う手法である。
大規模なソフトウェア開発のプロジェクト管理の一環として利用されている。
・アローダイヤグラム
アローダイヤグラムの構成要素は、作業と結合点である(図8−1)。
作業:アクティビティとか、アークといい、矢線(→)で表す。
矢線の長さと実際に要する時間とは、無関係である。
結合点:作業の着手および完了の時点を意味する。
イベント、またはノードといい、丸(○)で表す。
丸の中の番号を結合点番号という。
結合点番号は、図8−1のように、矢印の方向に大きくなるようにつける。
また、始点と終点はそれぞれ1つの結合点にまとめる。
<アローダイヤグラムのルール>
(1)1つの結合点に複数の作業が絡んでくる場合には、それらの作業がともに完了しないと、次の作業には進めない。
例)図8−1のアローダイヤグラムで、「BからDへの作業」と「CからDへの作業」の2つが完了しないと、「DからFへの作業」は進められない。
(2)2つの隣り合う結合点の組合せで表現される作業は、1つに限定される。
ただし、前後の結合点間に並行的な作業が存在する場合には、ダミーの作業を使って、破線の矢線で表現する。
ダミーの作業時間は、0である。
上記のような表現はできないので、次図のようにダミーの作業を使って表現する。
・PERTの作業手順
STEP1・・・
作業の順序づけを行う。
プロジェクトにかかわる作業すべてを列挙し、それらの順序関係を決定づけ、各作業の所要時間数を記入する。
STEP2・・・
アローダイヤグラムを描く。
STEP3・・・
PERTの計算処理を行う。
・PERTの計算
アローダイヤグラムから、
・プロジェクトの全所要時間
・時間的余裕のある/ない作業は何か
などの日程計画に役立てるための計算をする。
すなわち、最早開始時刻と最遅完了時刻の計算をして、クリティカルパス(後述)を求めるのである。
・最早開始時刻
ある結合点jで、作業が開始できる最も早い時刻TEj(earliest start time)のことである。
結合点iから結合点jまでの所要時間をDi、jとすると、
TE1=0
TEj=TEi+Di、j
である。
・最遅完了時刻
結合点iで終了する作業が、遅くとも完了しなくてはならない時刻TLi(latest finish time)のことである。
終点nの最早開始時刻、すなわちプロジェクトの全所要時間をTEnとすると、
TLn=TEn
TLi=TLj+Di、j
である。
・余裕時間
各接合点での最遅完了時刻と最早開始時刻の差を余裕時間(slack)とよぶ。
結合点iでの余裕時間をSiは、値によって次のようになる。
Si>0の場合・・・結合点iにおける作業の開始に、時間的な余裕がある。
Si=0の場合・・・結合点iにおける作業の開始に、時間的な余裕がまったくない。
・クリティカルパス
余裕時間のない結合点のみを結んだ経路のこと。
つまり、クリティカルパスは、始点から終点までの最長経路となっている。
この経路上の作業を重点的に管理すれば、プロジェクトは計画どおり終えることができる。
図8−2では、クリティカルパスは、経路@→A→B→E→F→Gで、所要日数は、14日間である。
◇CPM(Critical Path Method)
たとえば、ある作業を1人で行うと7日かかるが、3人で実施すれば3日で完了するということがある。
この場合、費用としては、1人のときが7人日であり、3人のときが9人日である。
このように、作業時間と作業費用との関係を反比例で表すことによって、経済的な納期短縮の計画を立案し、管理する手法。
具体的には、反比例関係を1次式で近似し、どの作業を短縮すれば最少の費用で納期が短縮できるかを求めるもので、線形計画法が使用される。
□統計的推測
◇統計的推測
現実の問題を考えるとき、条件があらかじめはっきりわかっていることは、まれである。
状況を定式化するには、限られたデータから、全体を推測する。
これを統計的推測という。
このことからもわかるように、統計に関する基礎知識を身につけておくことは、重要である。
◇組合せ
異なるn個のものからr個取り出してつくった組を、n個のものからr個をとる組合せという。
・組合せの数
nCr=nPr /r!=n!/r!(n−r)! (n≧r) ・・・式(1)
注)n!=n×(n−1)×・・・×2×1
一般に、次式が成り立つ。
nCr=nCn−r ・・・式(2)
nCr=n−1Cr+n−1Cr−1 (1≦r<n) ・・・式(3)
・重複組合せ
異なるn個のものから重複を許してr個を取り出す組合せ。
nHr=n+r−1Cr=(n+r−1)!/r!(n−1)!
◇確率
これから試みることに対する結果が何通りもあるとき、そのどれであるかの期待の程度を数量的に表現する数値が、個々の結果に対する確率である。
事象Aの起こる確立をP(A)で表す。
P(A)= 事象Aにふくまれる要素の個数
標本空間Sにふくまれる要素の個数
・条件付き確率
一般に、2つの事象A、Bについて、事象Aが起こったという条件のもとで事象Bが起こる確立をいう。
PA(B)= P(A=B)
P(A)
・乗法の定理:事象AとBがともに起こるとき
(1)AとBが従属(Aの起こることがBに影響する)
P(A∩B)=P(A)・PA(B)
(2)AとBが独立(Aが起こってもBに影響しない)
P(A∩B)=P(A)・P(B)
例)1つのサイコロをふる試行で、「偶数の目が出る」事象をA、「3の倍数の目が出る」事象をB、「4以上の目が出る」事象をCとするとき、
PA(B)=1/3、P(B)=1/3 より、
PA(B)=P(B)
PA(C)=2/3、P(C)=1/2
PA(C)≠P(C)
である。
これより、事象Aの起こるという条件は、事象Bの起こる確立に何の影響も与えない(AとBは独立)が、事象Cの起こる確率には影響を与えている(AとCは従属)と考えられる。
・反復試行の確率
1回の試行で事象Aの起こる確立がpで、この試行をn回繰り返すとき、ちょうどr回Aが起こる確立は、
nCr pr(1−p)n−r
◇確率分布
・確率変数
1つの試行において、その結果に応じて値の定まる変数のこと。
・確率分布
確率変数Xがとる値に、その値をとる確率を対応させたとき、この対応をXの確率分布という。
◇期待値・分散・標準偏差
◇二項分布
◇正規分布 ・・・略
◇統計
・母集団
無限回の実験データのこと。
・標本
有限回の実験データのこと。
このデータは、母集団の一部をなすものと考えられる。
・推定
未知の母数を、母集団から抽出した標本のデータから推定すること。
・検定
母数や分布に関する仮説がおかしくないかどうかを、標本データから統計量を計算して調べること。
・正規分布
安定した正常な工程のもとでは、製品の品質特性は種々の偶然要因での誤差によってばらつくものと考えられる。
このような場合の偶然誤差の分布は正規分布になる、といわれている。
平均がμで標準偏差σの正規分布は、図8−3のような形になる。
正規分布では、
(1)μ−σ≦x≦μ+σとなる確立は約68.3%
(2)μ−2σ≦x≦μ+2σとなる確率は約95.5%
(3)μ−3σ≦x≦≦+3σとなる確率は約99.7%
である。
この値は記憶しておくとよい。
・相関
2種類の対になっている特性間の関係(相関)を示すグラフを散布図という。
原因と思われる特性値をx(横)軸に、結果と思われる特性値をy(縦)軸にとって、測定値をプロットする。
このプロットの散らばり具合で相関の強さを知ることができる(図8−4)。
相関の強さは相関係数rで表し、−1≦r≦1である。
rが0のとき2つの特性間に関連性はない。
rが1または−1に近づくほど2つの特性間の関連性は強い。
8.2 在庫管理
◇在庫管理の必要性
在庫のよい面としては、
・大量購入や大量生産をすると経済的であること
・調達期間や製造期間のズレに対する防御ができること
などがあげられる。
逆に、在庫の悪い面としては、
・在庫を維持するための費用が発生すること
・使用変更があったときには、その在庫は使えないこと
などがあげられる。
このことから、在庫がたくさんあればよいというわけではないことがわかる。
在庫管理とは、在庫のもつ利点・欠点をうまく調整して管理することである。
◇経済発注量(Economic Order Quantity:EOQ)
在庫費用=発注費用+保管費用
が成り立つ。
発注費用とは、1回の発注に必要な費用(発注量に無関係)のことである。
発注費用を減らすために発注量を増やせば、保管費用が増える。
逆に、保管費用を減らすために発注量を減らせば、発注回数が増えるので、発注費用が増える。
このため、発注費用と保管費用の和が最小になる発注量を探す必要がある。
この発注量を経済発注量という。
年間在庫費用が最小となる発注量を求めるには、下の式を発注量について微分して0とおいた式を発注量について解けばよい。
これが、経済発注量になる。
年間在庫費用
=年間発注量+年間保管総費用
=年間発注回数×発注費用+平均在庫数×1個当たりの年間保管費用
□在庫管理における発注方式
◇定量発注方式(発注点方式)
発注量は常に一定だが、発注の時期は不定である方式のこと。
在庫がある決められた量(これを発注点という)まで減少したときに、一定量(経済発注量)を発注するのである(図8−5)。
発注してから入荷するまでの期間を調達期間あるいはリードタイムという。
この方式では、発注点と発注量を決定することが重要となる。
しかし、毎日の在庫量にはばらつきがあるので、在庫切れを起こす可能性もある。
在庫切れを起こさないようにするためには、かさあげした在庫量を発注点とする。
このかさあげ分を安全在庫(安全余裕)量という。
このとき、
発注点=調達期間中の平均需要量+安全在庫
安全在庫=安全係数×予測誤差のばらつき×√(調達期間)
となる。
定量発注方式は、在庫量を常時確認しなければいけないので、在庫品目が多くなると手間がかかり、不便である。
また、配送ルートによっては配送日が決められていることがあり、在庫が発注点より減少してから発注したのでは、目標の日までに届かないことがあり得る。
この欠点がないのが、次の定期発注方式である。
◇定期発注方式
毎週月曜日、月初め、10日ごとなどの一定の発注間隔を決めて、そのときの在庫量に応じて、発注する方式である。
つまり、発注の時期は常に一定だが、発注量は不定である(図8−6)。
発注日から次の発注日までの期間を発注間隔という。
発注量は、次の式で計算される。
発注量
={(調達期間+発注間隔期間)×需要推定量}−現在の発注残−現在の在庫残+安全在庫
8.3 産業社会と情報システム
ここでは、社会で用いられている情報システムの用語を説明する。
◇FA(Factory Automation:ファクトリオートメーション)
factoryの意味は「工場」。
製造現場における情報処理および製造自動化をさしている。
◇CAD(Computer Aided Design:コンピュータ支援設計)
コンピュータの助けをかりることで、コンピュータと人間の協同作業として各種の設計を行うこと。
画面上の設計情報を見ながら設計する。
◇CAE(Computer Aided Engineering)
CADをさらに進め、設計のプロセス全体にコンピュータを適用しようとする概念。
CADで作成したモデルの性能や特性などを試作前に予測し、開発期間の短縮およびコストの削減を図ろうとするもの。
◇CAI(Computer Aided Instruction:コンピュータ支援教育)
学習者の理解を助けるためにコンピュータを利用するシステムのこと。
◇CAM(Computer Aided Manufacturing:コンピュータ支援生産)
コンピュータの助けをかりて、製品の製造を自動的に行うこと。
製造部門の自動化を進め、生産性を上げることを目的としている。
◇CIM(Computer Integrated Manufacturing:コンピュータ総合生産システム)
コンピュータを利用して、生産から販売までを統合化したシステム。
◇EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)
従来、事務処理類などを直接交換することによって行われてきた取引にかかわる情報を、電子化してネットワークを通してやりとしすること。
◇CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)
製品のライフサイクルにかかわる情報をやりとりするためのシステムのこと。
8.4 ビジネスシステム
◇残高試算表
残高試算表は、総勘定元帳の各勘定科目から、各勘定の残高(借方−貸方)だけを集計し一覧にしたものである。
残高試算表の借り方合計と貸方合計は必ず一致する。
図8−7から、次のことがわかる。
・貸借対照表方程式
(資産)=(負債)+(資本)+(純利益)
・損益計算書方程式
(純利益)=(収益)−(費用)
◇損益計算書
損益計算書(P/L:Profit & Loss Statement)とは、「ある一定期間の会社の活動の成果を把握する」ための書式のことである。
損益計算に必要な主な項目をまとめると次のようになる。
売上高 | 売上原価 | 材料費 | |||
設備、工具代 | |||||
労務費等 | |||||
売上総利益 | 販売費、一般管理費 | ||||
営業利益 | 営業外費用−営業外収益 | ||||
経常利益 | 法人税、住民税等 | ||||
当期純利益 | 配当 | ||||
繰越利益 |
表の読み方は、次のようになる。
・(売上高)=(売上原価)+(売上総利益)
・(売上原価)=(材料費)+(設備、工具代)+(労務費等)
◇損益分岐点
損益分岐点は、利益が出るか赤字になるかの境目の売上高のことである。
(1)(総費用)=(固定費)+(変動費)
=(固定費)+(変動費率)×(売上高)
(2)(変動費率)=(変動費)/(売上高)
(3)(損益分岐点)= (固定費)
1− (変動費)
(売上高)